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アスリートのセカンドキャリア
2018年2月1日
近年、アスリートのセカンドキャリアについての話題がたくさんあり、注目されている。
人材派遣会社で、アスリートの仲介をすることも増えて来ているし、キャリア支援としてプログラムを実施している企業もあり、スポーツ選手にとっては少しずつではあるが、恵まれた環境になりつつある。
今まで、「プロスポーツ」として競技を行ってきたアスリート達は、現役時代は注目される環境にいるが、引退後にどういった人生を歩んでいるかがフォーカスされることは少なかった。
しかし、近年はテレビ番組で元アスリートの今を追ったり、戦力外通告を受けたプロ野球選手の特集があったりと、一般の人が華々しい舞台の裏側を知る機会が増えてきた。
「キャリア支援」「アスリート支援」
と言えば聞こえは良い。しかし本質を理解した上で企業は行う必要があると思うし、アスリート側はもっと考え理解する必要があると私は考えている。
そもそも何故「アスリートのセカンドキャリア」が困難な道を辿っているのか。
それは社会人として必要なスキルを身につけていないからに他ならない。
一般の人だと、高校卒業時に就職する場合は18歳、大学卒業時に就職する場合は22歳〜23歳となる。それまでに受験勉強や就職活動を行い、激しい倍率の中で企業に就職する。次に新入社員研修があり、雑務もあるだろうし、理不尽なことも多々あるだろう。残業もあるだろうし、無駄だと思う飲み会もある。しかしその中で関係性を構築し、業績に貢献していく。電話対応や名刺交換、挨拶や資料作成、営業力やプレゼンテーション。こういったスキルを少しずつ身につけ形になっていく。
企業からすれば、入社1年や2年の社員は会社の業績にほぼ貢献していない。しかし将来的に貢献するであろう人材だから採用するし教育・育成を行う。
一方でアスリートの場合、様々な競技環境はあるが、高校や大学に推薦で入るケースが多く、企業にしても就職活動をするわけでもなく、逆に勧誘されていくケースも多い。もちろん能力があってのことで、それを社会人になってまで行っているアスリートは尊敬に値する。常に食事や生活には気をつけるだろうし、日々厳しいトレーニングを行っている。その積み重ねで結果を出す。時には結果が出ない時もあるだろうし大きな怪我をすることだってある。その中でもそれらを乗り越えて結果を出したり、常に挑戦する。これはなかなか皆が出来ることではないし、努力できる能力や・身体能力・センス、これらを備えていることは強みでもある。
しかし、極めれば極めるほど、一般的な感覚とはかけ離れていくのも事実だ。特にプロ野球選手やプロサッカー選手の場合、年収が億を超えることがあり得る。日々トレーニングを行うが、好きなものを買ったり、豪快に遊んだりもできるだろう。これはマイナー競技であっても、金銭的な事情は別として、日々トレーニングを行う時間がある。仮に働きながら競技を行う人もいたとしても、責任を伴う業務というのは免除されている場合が多く、競技に集中できやすい環境になっていることがほとんどだ。要は特別な待遇を受けている環境にいるということだ。
そしていざ引退するとする。収入はなくなる。どうやって生活していくか、働くしかない。しかし働き口が見つからない。
当たり前のことだと思う。
これが年齢にもよるが、30歳まで競技を行った場合、高卒で就職した場合は社会人経験12年、大卒で就職した場合は8年。この人達とどうやって同じ舞台で一緒に働いていくのか。
今まで、ちやほやされることもあっただろうし、「スポーツ選手だからね」と許されてきたこともあるだろう。名刺交換やきちんとした服装・言葉遣いに加え、ワードやエクセル、パワーポイントの使い方を分かっているアスリートがどれだけいるだろうか。
会社からすれば、30歳で1から社会人として必要なことを覚えさせるより、一般的な感覚を持っている高卒・大卒時の新入社員を採用し、育成した方が会社に貢献すると考えるのは普通の感覚ではないだろうか。
よって、一部で聞くこともあるが、アスリートが
「セカンドキャリアの支援がまだ日本は整ってない」
と唱えるのは、おかしな話だと思う。何故アスリート側がそれを言えるのか。
会社は利益を出さなければならない。そうなると社員を採用するということは、とても重要なことで会社の未来がかかっており、お情けで採用しようなんて考えていない。これをアスリート側は十分に理解した上で、必要なスキルを身につけることに時間を割く必要があるし、理解しなければならない。
よく体育会系が採用を優先されるケースがある。これは一般的には「体力がある」「厳しい競争を勝ち上がった」「集団行動や規律を守れる」などの理由が挙げられるだろうが、それだけでなくそこから社会人として必要な要素を身につけることでそれらを活かせるということだ。スポーツだけをやっていて体力に自信があるが他は何も分かりませんでは話にならない。
また、団体・企業側が「アスリート支援」「セカンドキャリア支援」と言えば聞こえは悪くない。
しかし、中身がある団体・企業がどれだけあるだろうか。イメージは良いかもしれないが、本質を理解していなければ、全くもって企業のためにも元アスリートのためにもならない。
引退後の選手を口利きで斡旋したとしても、企業からすれば使えるのは営業での初めの名刺交換で話が弾むぐらいだ。また得意先でスポーツ好きの担当者にあたってうまく話が進む。こういったケースもゼロではないだろうが、いつまでも続く話でもない。引退して年月が過ぎ、10年前・20年前のことを言うのが営業スキルだとしたら、それは悲しい話である。
また、そういった支援の形では、元アスリートが現役時代の価値観や感覚のまま社会人になる。それが本当の意味の支援だとは私は思わない。働いて生活できるようにするという目的は達成しているかもしれないが、企業に貢献そして社会に貢献することができる人材にすることが本当の意味での支援だと考えている。
一方で、アスリート支援を行っている企業で、しっかりとマナーや研修を徹底して行っているところもある。そういった企業に伸びていってほしいと思う。
アスリートがセカンドキャリアを本当に考えるのであれば、今までやってきたことは武器になるかもしれないが、必要なのは全く身につけていないスキルであり、それらを一から習得する覚悟と実行力、そしてそれらを自覚することが重要だ。決して他力本願ではいけない。それまでの関係性で「コネ」がある場合も多いが、そうではなくて自分が社会人として価値のある人間になるように努力し、必要とされるスキルを身につけることによって、その人の過去もより一層輝くことと思う。
過去と未来をつなぐための「今」。その今を大切にすることによっていくらでもセカンドキャリアの選択肢は増えると思うし、アスリートの引退後のセカンドキャリアというのは、実は無限の可能性に溢れていると考えている。
現役時代にこのようなことを考えている人は少ないと思うが、
「競技のことだけに集中するのがアスリート」
というのは何か違うと思っていて、周りのこうあるべきだというイメージはあくまでイメージであり、そこにその人の未来というのは含まれていない。
もちろん競技に集中することによって、より結果を出していくことは必要だが、四六時中競技のことだけを優先することが立派なアスリートかというと、決してそうではないと思うし、それで結果が出るとは思わない。社会が多様化していくことを望むのではなく、自分が適応できるようにしていくことが重要ではないだろうか。
こうして考えると
「アスリートのセカンドキャリア」
これは様々な可能性のある、ワクワクするような人生の分岐点となるはずだ。
私は26歳で独立した。実業団時代にここまで考えていたわけではない。独立して多くのことを学んだ。現在アスリートでありながら自分で会社を設立し仕事もしているが、本当に日々学ぶことばかりだ。
私自身のことはまた後日書くことにするが、もっともっとスポーツやアスリートの良さが広まっていけば良いと思うし、私の考えなどもこうして発信することにより、アスリートの何かしらの気づきになればと思う。